2021年1月1日、ReVeluv(=Red Velvetファンのこと)たちが待ち望んでいた「復活」の奇跡は、YouTubeで全世界向けに無料配信されたイベント「SMTOWN LIVE “Culture Humanity”」の一環として訪れた。思えば、一昨年末にウェンディが遭遇した転落事故を受け、4人体制で迎えた2020年は多難な年だった。アイリーン&スルギのユニットによる『Monster』以外、グループとしてはほとんど活動休止を余儀なくされた。やがてどうにかウェンディ復帰の見通しも立った矢先、今度はアイリーンによるスタッフへのパワハラ騒動が勃発。世間やアンチから集中砲火を浴びる中、12月には同じ事務所のSMエンターテインメントから妹グループ「aespa(エスパ)」がデビューした。先輩であるRed Velvetの方はもはやこのまま解散か、といった悲観論さえネットでは飛び交っていたのである。
もともと”怖さ”が持ち味のグループ
ようやく始まったRed Velvetの1曲目は『Bad Boy』だった。タイトルからして、どんな悪い野郎なのかと思いがちだ。でも、歌詞の日本語訳を読んでみたら、悪いのは徹頭徹尾、女性の方なのだった。気になった男の子について来させ、ゲーム感覚で駆け引きを楽しんだ挙句、自分に惚れさせる、って内容。よほどの自信がないと歌えない曲だけど、彼女たちにはピタリとハマっている。
今回のステージでは、アイリーンのパワハラ騒動が頭から離れないせいか、彼女がセンター位置に入ったとたん、「女番長」に見えてしまってしょうがなかった。そして、番長に率いられた不良集団の子分が4人。全員、目付きが悪く、しかも美女という…。怖いんだか、可愛いんだかよくわかんないようなこの絶妙な空気感は、やはりエキセントリックな性格の番長なくしては醸し出せない。エンディングで見せるアイリーンの「上から目線」も堂々としていて、むしろ潔い。
次は『Peek-A-Boo』。タイトルは英語で「いないいないばあ」という意味らしいけど、不思議なメロディーラインとも相まって、まるでおとぎ話だ。可愛い女の子と夜遅くまで一緒に遊んでいたはずなのに、気が付いたら跡形もなく消えていた、みたいな。ここでもやはり男をビビらせる恐ろしさの中心にアイリーンがいる。彼女が最後に「ピカブー」と囁くたび、一段と闇が深まって行く気がする。
約1年ぶりに5人で『Psycho』を踊る
最後の『Psycho』は、リリースされて2日後にウェンディの転落事故が起きたため、OT5(完全体)によるパフォーマンス自体が貴重な映像だ。冒頭のオペラティックなハイトーンボイスからして、どこか常軌を逸した狂気が漂う。歌詞は、過度な共依存関係から抜け出せず、傷つけ合いながら求め合う恋人たち、といった内容だ。ウェンディやスルギのファルセットがかった高い声が背筋をゾクゾクさせるし、ガーリーなイェリとガールクラッシュなジョイもしっかりと持ち味を発揮しているから、アイリーンの比重は相対的に下がっている気もする。とは言え、ラストはやはりアイリーンがセンターだからこそしっかり決まる、と思うのは私だけだろうか。理屈ではないのだ。
上述の通り各曲を分析しながら、Red Velvetらしさとは何かと考えてみると、それはある意味ではアイリーンの個人的な性格のキツさではなかったかと気付く。観衆に媚びない、無愛想な表情。むしろ挑発するような、上から目線。BLACKPINKのジェニーが「生意気」だとしたら、アイリーンには「高飛車」という言葉がよく似合う。その冷たい眼差しにこそ、心をシビレさせる魅力がある。実際の彼女は、きっと楽屋では笑い転げたりもしているんだろうけど、そんなことを微塵も想像させない舞台上の緊張感が、グループの硬質な世界観を形作っている。
ファンに見せる素顔は「はにかみ屋」の一面も
だが、アイリーンには別な一面もある。ここではRed Velvetがファンたちと一緒に『Psycho』を歌った動画を一つだけ追加したい。時折り笑顔を浮かべつつ、リラックスしているアイリーンからは、傲慢さの欠片も感じられず、どちらかと言えば「はにかみ屋さん」という印象だ。こんな素顔を知る人は決して彼女から離れられないだろう。それこそ、いくら「サイコ(狂ってる)」と非難されようとも。