ようやく、という思いが強い。2020年11月17日のデビューから2ヶ月、aespa(エスパ)の『Black Mamba』が1月17日の音楽番組「人気歌謡」で待望の初1位を獲得した。デビュー曲での1位は、韓国の大手芸能事務所「SMエンターテインメント」に所属するガールズグループとしては、2007年の少女時代『Into The New World』以来、13年3か月ぶりという。あの名曲も初1位までに約2ヶ月かかったから、よく似ている。両者に共通するのは音楽があまりにも先へ進み過ぎて、大衆の心に浸透するまでに時間がかかった点だろうか。確かに今回の『Black Mamba』も、K-POPの世界観を根底から変えてやろうという野心がヒシヒシと伝わって来る。

本人を超えて成長するアバターへの恐怖も

デビュー日に公開された『Black Mamba』のミュージック・ビデオ(MV)には、メンバーたちのデータからAI(人工知能)によって作り上げられたアバター(ネット空間に存在する分身)が登場する。歌詞の日本語訳を読んでも、すんなりとは理解できない。一人の女の子が自分のアバターである「aespa」と楽しく暮らしていたのに、いきなりアバターが「SYNK out」して行方不明に。アバターは巨大な蛇「Black Mamba」に誘惑され飲み込まれてしまい、「KWANGYA」を彷徨っているという。そんな「Black Mamba」が嫌いだとサビの部分で4人のコーラスになる。

その後の展開は何とも皮肉だ。自ら学習しながら無限に成長を続けられるのがAIのすごいところなのだが、どうやらaespaのアバターにも「進化」(Evolution)が起こったらしい。今度はアバター自身が貪欲な「Black Mamba」となり、私を飲み込もうと誘惑してくる。私はそれに対抗せざるを得ない、というストーリー(合っているだろうか)。だから何なんだ、と聞かれてもうまく説明できないが、とにかくここで歌われているのは恋愛でもないし、既存の社会に対する反抗とかでもない。あえて言えば、デジタル・ネイティブである彼女たちが、自分のデータに基づいて生まれながら勝手な進化を遂げてしまったアバターという「他者」に向かい合いつつ、自分とは一体何者なのか、と問いかけている姿である。

コロナ禍でガランとした舞台に一抹の寂しさ

1位を取った日の「人気歌謡」にaespaは出演していなかった。ガランとした舞台の上でMCのナウン(April)が「アヤヤヤヤヤヤ〜」の部分を踊って見せてくれたのが微笑ましかった。最近は韓国でもコロナ「第3波」のためか、観客もアーティストも会場に集まらない音楽番組が増えているようだ。初1位の瞬間、aespaの4人がそこにいたら、と少しだけ残念な気がした。ちなみに少女時代が初めて1位を取った時の動画もYouTubeには残っていた。今ではアジアを代表する歌手になったテヨンが緊張しながら挨拶する様子は初々しい。こういうのが見たかったんだけど。