K-POPガールズグループの(G)I-DLEがこのほど、新曲『HWAA(火花)』でカムバックした。そのミュージック・ビデオ(MV)が公開された1月11日、北陸地方に住んでいる私は、3年ぶりの大雪で連日の雪掻き作業を余儀なくされ、クタクタに疲れ切った状態でこれを見た。首都圏などでも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のための緊急事態宣言が再び発令されたようだ。昨年以来、独裁者のように世界中を恐怖で支配しているウイルスにより、人々はマスクで顔を隠しながら、他人との接触を避け、自分の殻に閉じ込もるようになった。おそらく韓国でも、ニュースなどで知る限り、「第3波」の状況は日本とそれほど変わらないのではないか。そんな中で、今回の作品は、目の前が真っ白になるほどの凄まじい失恋を経験し、何とか立ち直ろうともがき苦しむ女性の思いを歌っている。しかし、それだけではない。優れた音楽がいつもそうであるように、この曲もまた、想像力を働かせることによって、さまざまなに解釈できる余地を残している。私の耳には、冬の厳しさと過酷なコロナ禍を生き延びるため、心の火を消さずに燃やし続けようと訴えているように聞こえた。
辛酸をなめさせられ続けてきた女性たちの恨み
MVの冒頭、緑豊かに生い茂っていた木がみるみるうちに色を失い、枯れ木になってしまった。世界を凍りつかせたのは単なる寒さではない。女性の長い髪を幾重にも撚り合せたような太いロープが、干からびた木から伸びて来て、歌っているソヨンの手に結びついている。はるかに遠い昔から辛酸を舐めさせられ続けてきた女性たちの恨みが凝り固まって、彼女に憑依したごとく見えた。
作詞・作曲・編曲を担う音楽プロデューサーでもあるリーダーのソヨンが第一声を発するのはグループの定番だ。この曲でも基調となる世界観を彼女がまず格調高く構築した上で、そこに乗っかる形でウギとスジンが具体的なリアリティーを付与していく。今回の2人は「私の中の涙がこれ以上出ないくらい/私は怒ってる/失った春を取り戻すわ」とかなりストレートに感情を爆発させる。その後で、満を持してメインボーカルのツートップであるミンニとミヨンが登場。「冷たく吹く風が/雪が白く覆う心が」「朝が来たらすべて溶けてしまうように」と印象的に情景を浮かび上がらせている。
そして、シュファの「火をつけるわ」という怖い呟きとともに始まるサビの部分は、一転してダンスブレークとなる。タイトルにも使われた韓国語の「화(ファ)」という単語が何度も繰り返される。「화」は「火」や「火花」、「花」を表すと同時に「怒」という意味もある。ソヨンが書いた歌詞では、この言葉が持つ多義性を生かしつつ、心を冷えさせるものへの怒りをぶちまけるとともに「花を咲かせるわ」としたたかな覚悟を吐露している。確かに失恋やコロナ禍の冬は辛いけれど、決して負けない炎が自分の中にあることを発見していく物語なのだ。
空っぽなままの巣、生命への危機感も表明
1度目のサビが終わった後、雰囲気がガラリと変わる。今度はソヨンやウギが巨大な巣の中に座っている。K-POPのMVにカラスの巣が出てくるなんて、今までに見た覚えのない斬新なイメージだった。しかし、そこには卵が一つもない。鳥たちがせっせと苦労して巣を作ったはずなのに、なぜ空っぽなのだろうか。このシーンの意図は何か?おそらくカラスだけの問題ではない。人間も含め、生きとし生ける者たちが、新たな命をはぐくんでいくことも難しくなった世の中に対して危機感を表明したのではないだろうか。
この曲の中で、彼女たちがひたすら願う「春」とは、新たな恋との出会いにとどまらない。寒さや感染症の終わりだけでもない。人々がかつてのように愛し合い、次の世代を大切に生み育てられる社会を取り戻したいという切実な気持ちが込められているのではないだろうか。こうして2度目のサビでは、同じ歌詞にもかかわらず、新しい挑戦に向かって再出発する勇気がひしひしと伝わってくる。そこに、この曲がはらんでいるスケールの大きさが垣間見えるような気がした。
音楽番組で幻想的な美しいステージを披露
1月14日に放送された韓国の音楽番組「M COUNTDOWN」では、メンバー6人が白いドレスに身を包み、激しく雪が舞うようなダンスを披露した。さらに後半では赤い火の粉が空から降って来たり、背景の木が火焔を上げて燃えたりと舞台効果も素晴らしく、幻想的な美しいステージを繰り広げていた。
*歌詞の日本語訳は、にーこ様による以下の動画を参照させていただきました。ありがとうございます。